契約管理と計上伝票(売上計上伝票/仕入計上伝票)を使用した、費用収益の見越し繰延処理と、契約会計情報マスタのiDempiere標準の自動仕訳の勘定科目を変更する機能を使用した連結会計への応用について説明します。
契約会計情報
JPiereの契約管理では、契約会計情報マスタの設定によりiDempiereの標準機能の自動仕訳の勘定科目を契約内容毎に変更する事ができます。この事により、自動仕訳を契約内容に応じて柔軟に設定する事ができます。
契約内容に応じて柔軟に設定する事のできる自動仕訳の勘定科目は、出荷納品伝票、売上請求伝票、売上計上伝票、入荷伝票、仕入請求伝票、仕入計上伝票の自動仕訳で使用する勘定科目です。
契約会計情報タブ
◆基点となる伝票
契約会計情報が適用される基点となる伝票を選択します。基点となる伝票は下記の4つです。
- SOO-受注伝票
- POO-発注伝票
- ARI-売上請求伝票
- API-仕入請求伝票
◆販売(ON)/購買(OFF)
読取専用フィールドで選択した基点となる伝票により、自動設定されます。販売管理と購買管理のどちらで使用する契約会計情報なのか判別するための情報です。
◆契約会計情報を利用する
iDempiereの標準の自動仕訳の勘定科目を契約会計情報の勘定科目に変更したい場合にONにします。
◆計上伝票を使用する
「基点となる伝票」が”SOO-受注伝票”か”POO-発注伝票”で、「契約会計情報を使用する」がONの場合に表示されるフィールドです。計上伝票(売上計上伝票と費用計上伝票)を使用するかどうか制御します。 ONにすると、 「基点となる伝票」が”SOO-受注伝票”の場合は、出荷納品伝票を完成にした時に、売上計上伝票が作成されます。 「基点となる伝票」が” POO-発注伝票”の場合は、入荷伝票を完成にした時に、仕入計上伝票が作成されます。
◆伝票ステータス更新
「計上伝票を使用する」がONの場合に表示されるフィールドです。計上伝票を作成する際の伝票ステータス更新処理を選択します。”空欄(ブランク)”にしておくと、計上伝票は”草案(Drafted)”で作成されます。
◆差異分割
「計上伝票を使用する」がONの場合に表示されるフィールドです。ONにすると分割計上する場合に、未計上分を別伝票として作成します。
◆計上伝票から請求伝票作成方針
「計上伝票を使用する」がONの場合に表示されるフィールドです。作成した計上伝票から請求伝票を作成したい場合にその方針を選択する事ができます。
- マニュアル … マニュアル操作(検索ウィンドウで計上伝票選択する事)により計上伝票から請求伝票を作成する事ができます。
- 全計上後一括請求 … 基点となる伝票(受注伝票もしくは発注伝票)の明細がすべて売上計上/仕入計上されている場合に、プロセスで請求伝票を作成します。
- 計上後都度請求 … 計上伝票を完成にした際に、請求伝票を作成します。
- 計上伝票から請求伝票は作成しない … 計上伝票から請求伝票は作成しない場合に選択します。
取引先契約会計情報タブ
契約会計情報タブの「契約会計情報を使用する」フラグがONの場合に表示されるタブです。このタブの自動仕訳の勘定科目の設定がされていない場合は、取引先マスタに設定されている自動仕訳の勘定科目が使用されます。
【ポイント】契約内容に応じて債権債務の勘定科目を切り替えられる!!
日本の会計処理では、慣習的に主たる営業に関わる債権債務とそれ以外の債権債務とで勘定科目を分ける事が多いです(例:買掛金と未払金、売掛金と未収入金)。このような場合、iDempiereの標準機能では、1つの取引先マスタに対して、債権と債務の勘定科目は1つしか設定できませんので、どうしても勘定科目を分けたいのであれば、分けたい勘定科目の分だけ、取引先マスタを登録する必要がありました。 しかし、JPiereでは契約内容に応じて、債権と債務の勘定科目を切り替える事ができますので、勘定科目を分ける事を理由に、同じ取引先マスタを複数登録する必要はありません。
品目契約会計情報タブ
契約会計情報タブの「契約会計情報を使用する」フラグがONの場合に表示されるタブです。このタブの自動仕訳の勘定科目の設定がされていない場合は、基本的には品目マスタに設定されている自動仕訳の勘定科目が使用されます。
【補足説明】品目契約会計情報は、品目カテゴリ単位の設定
品目契約会計情報は、品目カテゴリ単位で行います。これは、契約単位で勘定科目を制御するのに、品目ごとの設定では、仕訳情報が多くなりすぎて管理するのが難しくなりますし、全品目共通の勘定科目では、柔軟性に欠くという判断で、品目カテゴリ単位で勘定科目を設定できる仕様にしました。
◆品目原価勘定
「契約会計情報を使用する」フラグがONで、基点となる伝票が「SOO-受注伝票」の場合に表示されるフィールドです。出荷した品目の原価を記録するのに使用する勘定科目です。
【ポイント】内部取引(社内取引やグループ間取引)を勘定科目残高レベルで把握する
契約会計情報で品目原価勘定を変更する事ができるようにしている意図は、内部取引(社内取引やグループ間取引)の売上原価の残高を外部取引と勘定科目レベルで切り分けて、決算時の内部取引の相殺消去を容易にするためです。 社内取引やグループ間取引用の契約会計情報を作成し、契約内容に割り当てておくことで、売上原価を外部取引と、相殺消去が必要な内部取引とに勘定科目レベルで明確に区分する事ができ、決算の早期化に寄与します。
◆請求伝票収益勘定
「契約会計情報を使用する」フラグがONで、基点となる伝票が「SOO-受注伝票」か「ARI-売上請求伝票」の場合に表示されるフィールドです。 売上請求伝票で貸方の勘定科目として使用されます。売上計上伝票では借方の勘定科目として使用されます。
◆計上伝票収益勘定
「計上伝票を使用する」フラグがONで、基点となる伝票が「SOO-受注伝票」の場合に表示されるフィールドです。売上計上伝票で貸方の勘定科目として使用されます。
◆請求伝票売上値引勘定
売上請求伝票で売上値引を転記する場合に、使用する勘定科目です。
◆計上伝票売上値引勘定
売上計上伝票で売上値引を転記する場合に、使用する勘定科目です。
【ポイント】内部取引(社内取引やグループ間取引)の把握と収益の見越繰延処理
契約会計情報で収益勘定を変更する事ができるようにしている意図は、内部取引(社内取引やグループ間取引)の収益を外部取引と勘定科目レベルで切り分けて、決算時の内部取引の相殺消去を容易にするためです。
そして、もう一つの目的として、計上伝票を使用して収益の見越繰延を行うためでもあります。売上請求伝票は、請求時に起票し、売上計上伝票を売上の認識時に計上する事で、収益の見越繰延を簡単に処理する事ができます。
◆仕入勘定
「計上伝票を使用する」フラグがONで、基点となる伝票が「POO-受注伝票」の場合に表示されるフィールドです。仕入計上伝票で、仕入計上伝票明細の品目の品目タイプが”アイテム”の場合に、借方の勘定科目として使用されます。
◆仕入勘定オフセット
「計上伝票を使用する」フラグがONで、基点となる伝票が「POO-受注伝票」の場合に表示されるフィールドです。仕入計上伝票で、仕入計上伝票明細の品目の品目タイプが”アイテム”の場合に、貸方の勘定科目として使用されます。仕入勘定残高と仕入勘定オフセット残高は、相殺し0となります。
◆請求伝票費用勘定
「契約会計情報を使用する」フラグがONで、基点となる伝票が「POO-発注伝票」か「API-仕入請求伝票」の場合に表示されるフィールドです。仕入請求伝票で、仕入請求伝票明細の品目の品目タイプが”アイテム”以外の場合に、借方の勘定科目として使用されます。仕入計上伝票では貸方の勘定科目として使用されます。
◆計上伝票費用勘定
「計上伝票を使用する」フラグがONで、基点となる伝票が「POO-発注伝票」の場合に表示されるフィールドです。仕入計上伝票で、仕入計上伝票明細の品目の品目タイプが”アイテム”以外の場合に、貸方の勘定科目として使用されます。
◆請求伝票仕入値引勘定
仕入請求伝票で仕入値引を転記する場合に、使用する勘定科目です。
◆計上伝票仕入値引勘定
仕入計上伝票で仕入値引を転記する場合に、使用する勘定科目です。
【ポイント】内部取引(社内取引やグループ間取引)の把握と費用の見越繰延処理
契約会計情報で費用勘定を変更する事ができるようにしている意図は、内部取引(社内取引やグループ間取引)の費用と外部取引の費用とを勘定科目レベルで切り分けて、決算時の内部取引の相殺消去を容易にするためです。
そして、もう一つの目的として、計上伝票を使用して費用の見越繰延を行うためでもあります。仕入請求伝票は、請求時に起票し、仕入計上伝票を費用の認識時に計上する事で、費用の見越繰延を簡単に処理する事ができます。
摘要科目契約会計情報タブ
税金契約会計情報タブ
【補足説明】消費税の見越繰延
仮受消費税と仮払消費税の見越繰延処理として、国税庁のタックスアンサーでは、次のように案合しています。
タックスアンサー>消費税>基本的なしくみ>No.6165 前受金や前払金などがあるとき[平成29年4月1日現在法令等](https://www.nta.go.jp/taxanswer/shohi/6165.htm)
「消費税の課税資産の譲渡等や課税仕入れの時期は、所得税、法人税の場合と同じように、原則として資産の引渡しやサ-ビスの提供があった時とされています。したがって、例えば、工事代金の前受金を受け取ったり、機械の購入について前払金を支払っていたとしても、その受取や支払の時期に関係なく、実際に引渡しやサ-ビスの提供があった時が売上げや仕入れの時期となります。
同じように、未収金や未払金がある時も、その代金の決済の時期に関係なく、資産の引渡しやサ-ビスの提供があった時が売上げや仕入れの時期になります。 なお、前払費用のうち、所得税又は法人税の取扱いにより必要経費の額又は損金の額に算入することが認められている短期前払費用は、その支出した課税期間の課税仕入れに含めることになります。」
上記のように規定されているため、JPiereでは売上請求伝票/仕入請求伝票で消費税も見越繰延できるようにして、売上計上伝票/仕入計上伝票で、それを取り崩して仮受消費税/仮払消費税として処理できるようにしています。
税金契約会計情報を設定しない場合は、消費税は請求伝票だけで仕訳が起票され、計上伝票では仕訳は起票されません。税金契約会計情報を設定するかしないかで、請求伝票と計上伝票のどちらで消費税を計上するのか制御する事ができます。
売上計上伝票概要
JPiereでは契約管理の「契約会計情報マスタ」設定により、売上計上伝票で売上と売上原価を計上する事ができます。iDempiereの標準機能では売上請求伝票で、収益の認識と債権の計上を同時に行いますが、契約管理と売上計上伝票を使用する事で、収益の認識タイミングと債権の計上タイミングを分離する事ができます。 請求書の発行タイミングで売上請求伝票作成し、売上の認識タイミングで売上計上伝票を作成する事で、費用と収益の対応に齟齬がなく、売上の認識と債権の計上タイミングを分離して業務に柔軟に対応する事ができます。さらに、在庫の減少と売上原価の計上タミングを分離する事にもなるので、実物の管理としての在庫管理と、会計としての在庫管理の両方に対応する事ができます。
契約管理と売上計上伝票を使用した収益の認識と見越繰延の仕訳イメージ
下記の例は、5年間の”期間契約”の保守サポート料を一括前払請求を行い、月々売上計上する処理の仕訳をイメージしたものです。
受注伝票明細での売上計上済数量管理
iDempiereの標準機能では、受注伝票明細タブで、明細毎に引当数量や出荷済数量、請求済数量などをステータス管理しています。JPiereでは、売上計上伝票を追加開発した事により、受注伝票明細タブに、”計上数量”フィールドを追加し、売上を計上したかどうか把握する事ができるようにしています。
仕入計上伝票概要
JPiereでは契約管理の設定により、仕入計上伝票で費用を認識する事ができます。iDempiereの標準機能では仕入請求伝票で、費用の認識(もしくは仕入の計上)と債務の計上を同時に行いますが、契約管理と仕入計上伝票を使用する事で、費用の認識タイミングと債務の計上タイミングを分離する事ができます。
契約管理と仕入計上伝票を使用した収益の認識と見越繰延の仕訳イメージ
下記の例は、5年間の”期間契約”の保険料を一括前払いで支払い、月々費用計上する処理の仕訳をイメージしたものです。
発注伝票明細での仕入計上済数量管理
iDempiereの標準機能では、発注伝票明細タブで、明細毎に未入荷発注数量や入荷済数量、請求済数量などをステータス管理しています。JPiereでは、仕入計上伝票を追加開発した事により、発注伝票明細タブに、”計上数量”フィールドを追加し、仕入(費用)を計上したかどうか把握する事ができるようにしています。
売上計上伝票ウィンドウ
売上計上伝票は売上請求伝票とほぼ同じようなタブ構成と入力フィールドをもった伝票です。その作成方法や入力に関しても、基本的には売上請求伝票と同じです。仕入計上伝票も同様に仕入請求伝票と基本的には同じです。
売上計上伝票タブ
売上計上伝票明細タブ
資料
カスタマイズ履歴
2022年3月30日(Ver9) : 売上/仕入計上伝票で計算した課税標準額や税額などの情報を仕訳帳に引き継げるようにしました。
【JPIERE-0543】仕訳帳に課税標準額と税額の追加 に関連して、売上/仕入計上伝票で計算した課税標準額や税額などの情報を仕訳帳に引き継げるようにしました。
- jpiere.base.plugin.org.compiere.acct.Doc_JPRecognition
2021年12月31日 : 売上/仕入計上伝票での転記時のヌルポエラー
売上/仕入計上伝票で0数量での転記の際にヌルポのエラーになっていたのを修正しました。