在庫評価調整伝票は、在庫の評価の結果を受けて、その結果を会計に反映させるための伝票です。組織と品目の単位で明細を作成し、評価金額を計算します。そして、計算した評価金額をもとに、振替伝票を作成します。
在庫評価調整伝票概要
在庫評価調整伝票には、次の3つの処理ステップがあり、それぞれに独立した処理として、在庫評価プロファイルにより自由にカスタマイズできるようになっています。
Step1:在庫評価調整伝票明細の作成
在庫評価プロファイルに定義されている明細作成クラスを呼び出して、在庫評価調整伝票明細を作成します。次の”Step2:在庫評価調整額計算”では、ここで作成した在庫評価調整伝票明細に対して、在庫評価の計算を行います。
Step2:在庫評価調整額計算
“Step1:在庫評価調整伝票明細の作成”で作成した明細毎に、在庫の評価調整金額を計算します。その計算は、在庫評価プロファイルに定義されている在庫評価調整クラスが行います。
Step3:在庫評価伝票明細をもとに振替伝票作成
“Step2:在庫評価調整額計算”で計算した調整金額をもとに、振替伝票を作成します。
在庫評価調整伝票
JPiereでは棚卸資産の増減に関する自動仕訳には標準原価を使用する事を推奨しています。そのためリアルタムで計算されている在庫金額は管理会計としての速報値的な数値です。在庫評価調整伝票では、そのリアルタイムで計算されている管理会計の速報値的な在庫評価金額を、財務会計として評価した正しい在庫評価金額に調整するのに使用します。
在庫評価調整伝票タブ(JP_InvValAdjustテーブル)
◆伝票タイプ
在庫評価調整伝票の伝票タイプを選択します。在庫評価調整伝票のベース伝票タイプは”JPA”です。
◆評価日付
在庫評価を行う日付です。この評価日付の在庫数量に対して、在庫評価金額を計算します。
◆転記日付
在庫評価を行う日付です。この評価日付の在庫数量に対して、在庫評価金額を計算します。在庫評価の調整を行う振替伝票の日付に使用する事を想定しています。
◆在庫評価プロファイル
在庫評価プロファイルを選択します。在庫評価プロファイルは、在庫評価調整伝票明細作成プロセスを実行すると変更する事ができなくなります。
◆通貨
在庫評価プロファイルより自動設定されます。
◆在庫評価調整伝票明細作成ボタン
在庫評価プロファイルに設定されている在庫評価調整伝票明細作成クラスのプロセスが呼び出されます。伝票の完成前であれば何度でも再実行できます。
◆在庫評価調整額計算ボタン
在庫評価プロファイルに設定されている在庫評価調整額計算クラスのプロセスが呼び出されます。在庫評価調整伝票明細作成プロセスが実行されると表示されるボタンです。
◆在庫評価調整振替伝票作成ボタン
在庫評価プロファイルに設定されている振替伝票作成クラスのプロセスが呼び出されます。在庫評価調整額計算プロセスが実行されると表示されるボタンです。在庫評価調整振替伝票作成ボタンは、在庫評価調整伝票を完成にした後でも、押す事ができます。
◆明細行合計
参考情報として、在庫評価調整伝票明細の在庫評価金額(JP_InvValTotalAmt)の合計値を表示します。財務会計上の在庫評価金額の合計になる事を想定しています。
◆差異金額
参考情報として、在庫評価調整伝票明細の差異金額(DeffierenceAmt)の合計値を表示します。財務会計上の在庫評価金額にするために必要となる調整金額の合計値を表示する事を想定しています。
在庫評価調整伝票明細タブ(JP_InvValAdjustLineテーブル)
組織毎に品目の在庫評価金額を計算し、実際に転記されている金額を調整するために使用する事を想定しているタブです。
◆会計スキーマ
在庫評価プロファイルに設定さている会計スキーマを設定し、在庫評価調整金額の計算に使用する事を想定しています。
◆在庫評価方法
在庫評価プロファイルに設定さている在庫評価方法を設定し、在庫評価調整金額の計算に使用する事を想定しています。
◆在庫評価レベル
在庫評価プロファイルに設定さている在庫評価レベルを設定し、在庫評価調整金額の計算に使用する事を想定しています。
◆勘定科目
棚卸資産勘定科目を設定し、在庫評価金額を調整する振替仕訳を作成する際に使用する事を想定しています。
◆帳簿数量
会計として管理している評価日付時点の数量を設定し、在庫評価調整金額の計算に使用する事を想定しています。
◆在庫評価単価
在庫評価計算伝票での計算結果を在庫評価単価に設定し、在庫評価調整金額の計算に使用する事を想定しています。
◆在庫評価金額
帳簿数量×在庫評価単価の金額を保持し、在庫評価調整金額の計算に使用する事を想定しています。
◆借方会計通貨金額
在庫評価日付時点における、勘定科目の借方会計通貨金額の残高を設定し、在庫評価調整金額の計算に使用する事を想定しています。
◆貸方会計通貨金額
在庫評価日付時点における、勘定科目の貸方会計通貨金額の残高を設定し、在庫評価調整金額の計算に使用する事を想定しています。
◆記帳残高
借方会計通貨金額 - 貸方会計通貨金額。在庫評価調整金額の計算に使用する事を想定しています。
◆差異金額
在庫評価金額 – 記帳残高。この金額を在庫評価調整金額として、振替仕訳を作成する事を想定しています。
◆手持在庫数量
在庫管理として管理している在庫数量を設定する事を想定しています。
◆差異数量
手持在庫数量 – 帳簿数量。在庫管理上の在庫数量と財務会計上の在庫数量の差異。
◆確認済み
差異数量の要因を把握した時にONにする事を想定した備忘記録的フラグです。
◆借方振替伝票明細
在庫評価調整伝票明細をもとに起票された振替伝票の明細を保持する事を意図しています。
◆貸方振替伝票明細
在庫評価調整伝票明細をもとに起票された振替伝票の明細を保持する事を意図しています。
在庫数量差異ログタブ(JP_InventoryDiffQtyLogテーブル)
在庫数量差異ログタブでは、在庫管理で管理している在庫数量と、会計で管理している在庫数量に差異があった場合に、その差異原因を記録しておく事を意図したタブです。在庫評価日より以前の日付の伝票がすべて正しく転記されている場合、在庫の差異の原因の多くは、入荷伝票もしくは納品出荷伝票において、移動日付と転記日付が在庫評価日付を跨いで異なる事によります。
◆会計数量への調整数量
在庫管理上の在庫数量から、財務会計上の在庫数量へ調整するための数量を設定する事を想定しています。在庫管理上の在庫数量 + 会計数量への調整数量 = 財務管理上の在庫数量。
JPiereデフォルトの処理
◆在庫評価調整伝票明細作成プロセス
在庫評価調整伝票明細作成ボタンを押すと実行されるプロセスのクラスとしてJPiereでは、jpiere.base.plugin.org.adempiere.processパッケージにDefaultCreateInvValAdjustLineクラスを用意しています。このクラスでは在庫評価調整伝票の評価日付をキー情報として、組織別棚卸資産勘定残高のタイムスタンプ(JP_InvOrgBalance)から、棚卸資産勘定残高を取得し、在庫評価調整伝票明細を作成します。
◆在庫評価調整額計算プロセス
在庫評価調整額計算ボタンを押すと実行されるプロセスのクラスとしてJPiereでは、jpiere.base.plugin.org.adempiere.processパッケージにdefaultInvValAdjustCalculateクラスを用意しています。このクラスは、在庫評価単価を在庫評価プロファイルに設定されているプライスリストの在庫評価日付のバージョンに設定されている標準価格から取得します(該当するデータ存在しない場合は、標準原価の現在の原価を取得します)。そして在庫評価単価と財務会計として管理している在庫数量を乗算し、会計上の評価金額を算出します。最後に、評価金額と現在記帳されている棚卸資産勘定残高との差異を計算します。
◆在庫評価調整振替伝票作成プロセス
在庫評価振替伝票作成ボタンを押すと実行されるプロセスのクラスとしてJPiereでは、jpiere.base.plugin.org.adempiere.processパッケージにDefaultInvValAdjustGLJournalクラスを用意しています。会計上の評価金額にするために、棚卸資産勘定残高を調整する振替伝票を自動作成します。
カスタマイズ情報
追加テーブル
- JP_InvValAdjustテーブル
- JP_InvValAdjustLineテーブル
追加クラス
◆モデルクラス
- MInvValAdjust.java
- MInvValAdjustLine.java
◆プロセス
- 在庫評価調整伝票ワークフロープロセス(JP_InvValAdjust Process)
- 在庫評価調整伝票明細作成(JP_Create_InvValAdjustLine)…CallInvValAdjustLineClass
- 在庫評価調整計算(JP_Create_InvValAdjustCal)…CallInvValAdjustCalClass
- 在庫評価調整振替仕訳伝票作成(JP_Create_InvValAdjustGLJournal)…CallInvValAdjustGLJournalClass
- 明細行合計更新(JP_Sum_InvValCalLine)…InvValCalLineSum
- DefaultCreateInvValAdjustLine
- DefaultInvValAdjustCalculate
- DefaultInvValAdjustGLJournal
その他
◆ベース伝票タイプの追加
リファレンス"C_DocType DocBaseType"にJPA(Inventory Valuation Adjust)を追加;
◆リファレンスの追加
- JP GL Journal Line …振替伝票明細への参照情報
- JP DocType JPA…伝票タイプをベース伝票タイプ"JPI"で絞り込むためのリファレンス
◆ワークフローの追加
在庫評価調整伝票ワークフロー(Process_JPiere_InvValAdjust)
期末在庫評価の説明資料
更新履歴
2021年1月10日:在庫評価が不要な品目の場合は、在庫評価調整伝票明細を作成しないようにする
在庫評価調整伝票明細の作成処理において、在庫評価プロファイルの"在庫が0の場合でも在庫評価する"フラグがOFFで、期末の在庫残高が0円でかつ品目マスタの"取扱終了"フラグがONの品目は、在庫評価調整伝票明細が作成されないように改善しました。
2020年7月27日:PostgreSQL - To_Date()関数の引数チェックの厳格化への対応
PostgreSQL10よりTo_Date()関数の引数のチェックが厳格化された事によりjpiere.base.plugin.org.adempiere.proces.DefaultInvValAdjustCalculateクラスをメンテナンスしました。
参照:https://www.ashisuto.co.jp/db_blog/article/201712-postgresql10-upgrade.html
2018年9月3日
在庫評価プロファイルで、各種処理を実行するためのクラスの設定が無い場合には、デフォルトのクラスが呼び出されるように修正しました。