今日は、無料のオープンソース(OSS) ERPを使って事業展開していく上で、必ずと言ってよいほど必要になる、ユーザー企業に提示する”見積”について、自分なりに"気づき"があったので、忘れないようにこのブログにアップしておきたいと思います。
無料のOSS ERPの事業展開をどのように行うべきかというのも、研究テーマとしては面白いかなと思います。
ユーザー企業に説明するのは、見積金額になる"理由"ではなく、見積金額の"価値"
業務システムのリプレイスなり導入を検討しているユーザー企業の多くは、まずRFI(Request for Information)を出して情報を収集し、その中から興味を引いた情報を提供した数社に、RFP(Request for Proposal)の提出を求め、出そろった提案から、ユーザー企業にとって一番良さそうな提案を選択するというのが一般的な検討ステップだと思います。この一連の検討ステップの中に、現在私はいくつかの違和感を感じています。
ユーザー企業からRFIの段階から詳細な見積を要求される
1つ目の違和感が、RFIという本来は情報収集がメインの段階から、ユーザー企業から詳細な見積を要求されるという事です。システム導入にいくら必要なのか金額が知りたいというユーザー企業の気持ちは理解できますが、この段階である程度の精度を持つ見積を作れと言われても、作る方は困ってしまいます。中には、RFIといいながら、詳細な自社の業務分析資料と要求機能を開示してくる所もあります。しかし、ろくなヒアリングもなしに、大量の資料だけを渡されて、精度の高い見積をRFIの段階で作れと言われても、"むちゃぶり"です。
RFIでは、ユーザー企業にとって情報を収集するのが目的だと思いますので、システム情報と、そのシステムを導入するのに一般的に必要になる金額と期間の範囲を目安として求めるくらいが本来の姿ではないかと思います。
しかしながら、見積金額だけでなく、各フェイズや各機能の開発工数までRFIでユーザー企業に求められ、開示するのが当たり前のような風潮がなんとなくあり違和感を感じます。
工数までユーザー企業に開示する意味があるのか
2つ目の違和感は、そもそも請負契約であれば工数自体をユーザー企業に開示する意味や必要があるのかという素朴な疑問です。
RFIからRFPに至るまでの過程として、ユーザー企業へのヒアリングやユーザー企業に対するさらなる情報提供、ユーザー企業自身による情報収集により、RFPで概算的な見積金額をユーザー企業が求めるのは、もっともだと思います。見積金額がわからないと複数ある提案から1つに絞り込む事はできないでしょう。そして提案と見積金額が妥当であるか、判断するために工数を求めるのだと思いますが、そもそも必要となる工数から金額が妥当であるかどうかなどユーザー企業が判断する必要はないはずです。ユーザー企業は、抱えている課題が解決できるかどうか、そしてそれに見合う価格なのかを判断して、導入の可否を決めればよいはずです。
ユーザー企業に説明するのは、見積金額になる"理由"ではなく、見積金額の"価値"
そんな違和感を持ちながら、日々仕事をしている中で、営業の方から「根拠のない(工数の説明がつかない)見積金額はユーザー企業に説明がつかないから困る」と言われました。見積を作った方からしてみれば、別に根拠がないわけではなく、RFIやRFPの段階では不確定の要素が多いのでバッファとして工数を積んで金額を出しているだけなのですが、結果として見積金額が高くなる傾向にあるのでそれが嫌だったようです。そしてこの営業の方の発言から私は3つ目の違和感を感じました。それは営業の人が、「見積金額の説明をする」という点です。この違和感はなんでだろうと考えて行きついた答えが、営業の人がすべき説明は見積金額になる理由(工数の説明)ではなく、見積金額の価値なのではないだろうかという事です。
見積金額がいくらだろうと、その金額にみあった価値がある事が説明できれば、ユーザー企業は検討してくれるだろうし、予算に見合えばお金を出してくれると思います。逆に、見積金額になる理由(工数の理由)をいくら説明しても、ユーザー企業にとって判断材料にならない意味のない情報を伝えているだけなのではないかと思うのです。
ユーザー企業がシステムインテグレーター(SIer)に頼んで、業務パッケージシステムの導入を行うという事は、個人に置き換えて考えた場合、建売住宅を建設前に購入するのに似ていると思います(※注文住宅はフルスクラッチ開発のシステムに似ていると思います)。建設前の建売住宅を購入すると、ある程度購入者の要望を取り入れて建設してくれるでしょう。オプション料なる追加料金を支払えば、実に色々な事ができるでしょう。同じようにSIerに頼んで業務パッケージシステムを導入するという事は、多かれ少なかれユーザー企業の要望を取り入れてカスタマイズを行う事だと思います。システム導入の場合は、オプション料とは言いませんがパッケージシステムの料金とは別料金を支払えばアドン機能を開発し機能を拡張する事もできるでしょう。
建売住宅を建設前に購入する事を考えると、営業の人から「材料費が○○円で、大工さんの工数が○○人月かかっているので、この家は5千万円します。」という説明を聞いてもその家を買いたいと思う人はいないでしょう。買う側は欲しい家が立つのかどうか、金額はそれに見合った金額かどうか、もしくは予算内の金額かどうかで判断するはずです。建売住宅の営業の人は、これから建つ家の材料費や工数などは説明せずに、その魅力を説明しているのではないでしょうか。建材の品質を魅力の一部として営業の方が説明する事はあっても、その原価を説明する営業の方はいないでしょう。
注文住宅(≒フルスクラッチのシステム)であれば、見積金額の根拠として工数を説明する事も理解はできますが、「これだけ工数が掛かりますから○○円しますよ」と説明した所で、注文住宅でもあまり意味が無い気がします。値引きの材料を与えるに過ぎないと思います。
オープンソース ERP iDempiere を導入する価値を考える
見積金額の価値を説明すれば良いのだと言うのは簡単ですが、価値観は人(企業)によって違いますので、実際には言うほど簡単な事ではないと思います。
ここからは、見積金額の価値を説明するために、そもそもオープンソース ERP iDempiere(アイデンピエレ)の価値とは何なのかを、家の価値を引合いにだして考えたいと思います。
ERPそのものの価値
「ERPそのものの価値」は、家を引合いにだして考えると「家そのものの価値」という事になるのではないかと思います。家には資産価値だけでなく、風雨を防ぐ価値や、家族だんらんの場所となる価値など色々な価値があります。同じようにERPそのものの価値をまずは考えたいと思います。ERPそのもののユーザー企業にとっての価値(SIerにとっての価値は考えない)は次のものが考えられるかなと思います。
◆ERPそのものの価値
- リアルタイムで企業の経営状況が把握できる(リアルタイムで利益が把握できる)。
- 業務データを一元管理できる。
- 業務データを全社員で共有できる。
- 内部統制の強化
オープンソースのERPとしての価値
「オープンソースのERPとしての価値」は、家を引合いにだして考えると「新築と中古住宅を比較した際の中古住宅の価値」に似ているのではないかと思います。新築と中古住宅を比較した場合、中古住宅のメリットはまず新築で購入するより安い事でしょう。オープンソースのERPも、商用ERPより高いようでは、魅力が無くなってしまうと思います。でも、中古住宅の魅力(価値)は価格面だけではないと思います。
中古住宅は既に建っているので、実際に家を見て確認してから購入する事ができます。iDempiereも実際に触ってみて、使用するかどうか判断する事ができます。ただし、中古住宅の良し悪しを建物の構造や基礎レベルで判断する事ができるようになるまでには、相当の知識と経験、時には専門家の鑑定が必要になるのと同様に、iDempiereを実際に触ってみて、本当の良し悪しを判断できるようになるには、iDempiereを知るための時間や費用が必要になるだろうと思います。
そして、中古住宅はリフォームする事により自分の好きなように家をカスタマイズする事ができます。オープンソースのERPも同じようにオープンソースなので自由にカスタマイズできます。ただし、中古住宅でもリフォーム内容によっては、新築を超える金額になる事もあるように、オープンソースのERPもカスタマイズ内容次第では、商用ERPを超える金額になる事もあるかもしれませんので注意が必要です。
◆オープンソースのERPとしての価値
- コスト面
- カスタマイズが自由
iDempiere(アイデンピエレ)の価値
iDempiere(アイデンピエレ)の価値として、"ERPそのものの価値"と"オープンソースのERPとしての価値"があるのはもちろんです。では、それ以外にiDempiereの価値はなんでしょうか?iDempiereの価値を考えるということは、引き続き家で例えると「家の設計やデザインの価値」を考えることに似ている気がします。家の設計やデザインを考えた時に、今では「バリアフリー」とか「エコ」とかいうキーワードで設計&デザインされている家が多いかなと思います。私が小さい頃には無かった概念で、30年以上前に建てられている私の実家はバリアフリーとは無縁ですし、エコをコンセプトに建てられているわけでもありません。
商用大手のERPは、「家の設計やデザインの価値」で考えると、私の実家のような昔の家ともいえるのではないかなと思います。長年住んでいるので安心感はあるかもしれませんが、実際住んでみると不便な点も多いのではないでしょうか?(住んでいる人にとっては不便な状態が当たり前なので、不便と感じていないかもしれませんが…)。
そのように考えていくと、iDempiereは、ERPとしては後発な部類に入るので、その設計思想(システムアーキテクチャ)は洗練されていると思います。iDempiereになりOSGiの概念を取り込んだ事により、さらに磨きがかかっていると思います。うまく表現できているかわかりませんが、バリアフリーでエコな住みやすいシステムになっていると思います。
でも、いくらバリアフリーで、エコな住みやすい家があっても、家はそうそう住み替えられるものではありません。今住んでいる家に特に不満がなければ、いい家があっても住み替える人はほとんどいないでしょう!業務システムでも同様で、良いシステムがあるからといってすぐにリプレイスしようという事には残念ながらならないですね。
◆iDempiereの価値
- 洗練されたシステムアーキテクチャ
- OSGiによるプラグイン方式による機能拡張
- オープンソースのERPのパイオニアとして、先進的なアーキテクチャを取り込んで発展している所
- コミュニティーにより開発されているオープンソース→特定企業の意向に左右されるリスクが少ない。
こう考えていくと、iDempiereがどんなに素晴らしいシステムであっても、素晴らしいからと言って売れるものではない事がわかります。ユーザーは素晴らしい家に住みたいわけではなく、欲しい家に住みたいのですよね。今の家に不満がなければ、家が欲しいとはそもそも思わないですしね。
SIerの価値
オープンソースのERP iDempiereを導入する価値を考えた場合、その導入を請け負うSIerの価値というのも考えておきたいと思います。
SIerの価値とは、家で例えると住宅メーカーや建設業者の価値ですね。建売住宅やマンションであれば、野村不動産のプラウドや三菱地所のパークハウスなど家のブランドの価値とも言えるかもしれません。
SIerも大手SIerであれば、それだけで安心感があるかもしれません。でも、中には小さくても良い仕事をしている会社はありますから、その辺は見極める目がユーザー企業には求められるかもしれません。
オープンソースのERPを売るためには
業務システムの導入もしくはリプレイスを考えている企業は、多かれ少なかれ課題を持っています。オープンソースのERPを売るためには、オープンソースのERPを使ってユーザー企業が抱えている課題を解決できることを示さないといけません。そして、コスト的にはユーザー企業の予算内である必要があります。
iDempiereを売ろうとするのではなく、iDempiereを使ったソリューションを売らないとユーザー企業は買ってくれないでしょう。
あるべき営業手法と商談ステップを考える
ユーザー企業の予算感をつかむ
どなんに良いソリューションを提案しても、それがユーザー企業の予算内でないと買ってはもらえないでしょう。そのためにも、ユーザー企業の予算感をつかむのは大切な事です。この事を言うと多くの営業の人は「お客様に予算を聞くなんて簡単にはできないよ!」と言うかもしれません。でも建売住宅や、マンションを購入する際には、不動産会社の営業の方から「ご予算はおいくらでしょうか?」的な質問は、だれでも聞かれると思いますし、本当に購入する意思があれば予算を伝えるでしょう。
システムでも同じだと思います。営業の方は遠慮なく予算感を聞くべきです。
予算内でユーザー企業の課題を解決するシステムを作るにはどうすれば良いか考える
お金をかければ良いシステムが作れるのは、当たり前と言えば当たり前だと思います。しかし万人に良いシステムを作ることが目的ではありません。ユーザー企業の課題を解決する事が目的であり、システムを導入するユーザー企業にとってだけ良いシステムであれば良いのだと思います。そしてそれがユーザー企業の予算内で提供できれば売れるのだと思います。
家でいえば、欲しい家は人それぞれだと思います。家の場所も重要でしょう。私は茨城に実家があるので、その近辺が場所的には魅力的です。家の耐震性も重要ですし、4人家族で子供は上が女の子、下が男の子なので2つは子供部屋が欲しいので、間取りも重要です。庭の手入れなどはしたくないので、庭は不要です。車は乗らないので、車庫は入らないです…(結果として千葉のマンションに住んでいます)。
このような感じで、システムもユーザー企業によって色々な要求があると思います。その要求に予算内で応えられれば売れるのだと思います。
iDempiereは0円なわけですから、金額的に考えれば予算内に収まる可能性は高いですね。あとは、ユーザー企業の予算内にどのように収めるかだと思います。ユーザー企業の要求をそのまま実現しようとしたら、iDempiereに限らず、ほとんどのシステムが予算内に収めるのは難しいのではないかと思います。それは、家を建てる時を考えれば簡単で、自分が欲しいという要素をすべて実現しようとすると、その家は予算内ではできないでしょう。システムでも、同じような事が起こると思います。家を買うための情報誌(スーモなど)では、家に求めるものに優先順位をつけましょう!的な記事が定期的に掲載されます。システムも同様で、ユーザー企業に欲しい機能に優先順位を付けてもらって、予算内でどこまで実現できるか、アイディアを絞り出す事が必要だろうと思います。
iDempiereを使う理由は、ユーザー企業の課題を予算内で解決するためであるべきだと思います。
先のユーザー企業の予算感をつかむという話に戻しますが、ユーザー企業の課題を予算内に解決するためにiDempiereを使うので、ユーザー企業にはどうどうと予算を聞いて良いのです。ユーザー企業に、「御社の課題を予算内で解決するために0円のiDempiereを使おうと思っているので、予算を教えてください。」と言えば良いのです。
iDempiereの真の魅力
ここまで長々と考えて来て、私の頭に描くiDempiereの活用法に新しい視点が加わりました。それは、”iDempiereは、ユーザー企業が欲しい業務システムを予算内に提供できる可能性が高いシステム”であるという事です。
iDempiere(アイデンピエレ)は無料で使用できるオープンソースのERPです。無料で使用する事ができるため予算に応じたシステムの開発が可能であり、販売管理・在庫管理・購買管理・会計と一連の業務管理機能が既に備わっていている上に開発生産性が高いため、スクラッチ開発するよりも低コスト/短納期/低リスクで高機能な業務アプリケーションを構築する事ができます。
オープンソースのERP iDempiereを開発フレームワーク(業務アプリケーションの開発基盤)として利用する事によりユーザー企業の予算内で、予算以上の価値あるシステムを提供する事ができると思います。
抽象的になってきた感と、結局コストなのかという感じになってきましたが、お値段以上の価値を提供できる可能性があるという事は、何より大切な事だろうと思います。
Compiere Distributionの中でもiDempiereは、お値段以上の価値を提供できる可能性が一番高いだろうと思います。その理由はOSGiを採用した事によりプラグインにより機能拡張できるようになったからです。システムがお値段以上の価値を提供するには、いかに開発を少なくするか、既に開発したものを再利用できるかというのが1つのポイントになってくると思います。OSGiはプラグインとして、動的に機能を拡張する事ができますので、このポイントを高次元で実現しています。
今後、iDempiereが普及していくとSIerは、独自のプラグインを持つことが他のSIerとの差別化になり、競争優位に立つポイントになってくるだろう思います。
話があっちこっちに行って、まとまりも無くなってきましたし、とりあえず私の中で色々整理がついたので、このブログはこの辺りで締めたいと思います。この長文を読んで頂いた方がいたとしたら、最後まで私の独り言におつきあい頂きましてありがとうございました。
m(_ _)m